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川村亘平斎とあだち麗三郎の影絵と音楽ver2

富山県南砺市 / 射水市

出演:川村亘平斎(影絵)あだち麗三郎(音楽)kauai hirótomo(音楽)KUDO AIKO(音楽)ゲスト:ジャック・リー・ランダル&広田郁世(影絵)

フィールドワーク 7th-10th Apr 2021

リハーサル / ワークショップ / パフォーマンス1st-13th Jun 2021

 

2019年に富山県南砺市でフィールドワークを行い影絵芝居を制作した。このプロジェクトの第2弾を、というお話をいただき、今回は南砺市に加えてお隣の射水市でもフィールドワークを行い、新作南砺篇「おやまのかみのおおげんか」 / 射水篇「おじぞうさまがふってきた」の2話を制作した。

 

南砺篇「おやまのかみのおおげんか」

 

物語

立山のタヂカラオと白山のククリヒメは、どちらの山が背が高いかで喧嘩を始めた。山は噴火して地面が割れると、地底に封印していた大蛇が暴れ出した。大蛇を止めようとした猪の長は、人間の村まできて生き絶えてしまった。大蛇が起こした洪水によって水浸しになった村人たちは、近所に住むシャーマンのお婆婆のところに相談に行く。お婆婆は、霊術によって、洪水の原因を大蛇と山神の喧嘩だと発見する。お婆婆は、大蛇を騙して豆粒にして一飲みにし、立山と白山の喧嘩を鎮めた。

 

考察

この影絵芝居は、南砺市に伝わる「立山と白山の喧嘩」「大蛇を騙した老婆」2つの民話を再構成して制作した。

「立山と白山の喧嘩」について…立山と白山は、富山の東西を挟むようある立つ山で、両山ともに、山頂に石を積む風習が記録に残されている。これは、両山の山神が、自分の山の方が背が高いという主張をしている名残、とされているが、「山に石を積む」というのは、「噴火」のメタファーではないか、と推測したところから、今回の物語は始まる。「噴火」

=「岩が飛ぶ」という事象が、射水篇「おじぞうさまがふってきた」の物語にも影響を与えている(後述)

「大蛇を騙した老婆」について…南砺市井口蛇喰の頓知話。南砺周辺には「大蛇」や「龍」にまつわる話が非常に多い。「大蛇」や「龍」は河川の反乱のメタファーでもある。多くの民話が、江戸時代的な設定で語られるが、南砺周辺は縄文~弥生集落遺跡が多数出土しているので、今回は縄文時代の設定にした。火山噴火の話とも相性が良かった。

 

射水篇「おじぞうさまがふってきた」

 

物語

放生津に住む怪獣「ガメ」が毒を撒き散らし、疫病が蔓延していた。村人たちはガメを退治用とするが全く歯が立たない。ある日、空から隕石が降ってきた。子ども達が隕石を見にいくと、それはお地蔵さまだった。お地蔵さまは霊力をもっていて、病人たちを次々と直していく。しばらくすると、お地蔵さまが喋り出す。「私の他にもたくさんの地蔵が空から降ってきて、地面に埋まっている。それを掘り起こしてほしい」子ども達は各地に眠る地蔵を掘り起こす。突然怪獣「ガメ」が襲いかかってくる。お地蔵さまはガメを押さえながら子ども達に「放生津の奥深くに竜宮城がある。竜宮城に住む弁財天を読んで、ガメを退治しなさい」子供達は協力して弁財天を探し出し、ガメを封印する。

 

考察

放生津(現在の新湊)周辺には、夥しい地蔵が祀られている。また、当地の民話資料をあたると、真っ赤な地蔵が降ってきたとか、オコリハン(地蔵)が疫病(オコリ=マラリア)を治したなど、地蔵にまつわるものが多数残っている。コロナ禍において、昔の人々がどのようにして疫病と対峙したのか、とても興味があったので、この民話を影絵にすることにした。

 

現在、射水市周辺に、風土病が蔓延していた痕跡が残されていない。なぜここまで地蔵が多く祀られ、民話にまで残されていたのか?現地調査委の最後に訪れた博物館の学芸員さんがその答えを知っていた。

 

射水市周辺は、昭和の初め頃まで大変水捌けの悪いところで、一帯は全て沼地だった。稲刈りのシーズンでも膝くらいのところまで水に浸かるような生活をしていたそうで、マラリヤを含む風土病に昔から悩まされていた。戦前~戦後に活躍した政治学者・南原繁が、統治の土壌改良事業を行い、それ以後風土病は無くなった。

 

この話を聞けたのは大変意義深い。現代において、地蔵が疫病を治す、というファンタジーだけでは、人々に希望を持ってはもらえない。歴史的事実や、人間の試行錯誤によって問題を乗り越えてきた、という痕跡を見つけることが大変重要である。今回の富山影絵では、ファンタジーと歴史がクロスするポイントを発見できた調査だった。

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